解説「人間中心デザインの組織導入における課題と対応」

人間中心デザインの中心的なプロセスとして、「人間中心設計(ISO9241-210に準拠)」(図1)と「デザイン思考の5段階モデル」(図2)があります。人間中心設計は製品や機器システムに適用されることが多く、デザイン思考はより広くサービス設計やコミュニティづくりなどにも適用されます。

図1 人間中心設計(ISO9241-210より)
図2 デザイン思考の5段階モデル(Teo Yu Siang and the Interaction Design Foundationより)

どちらもユーザーやそこに関わる人々の活動状況を調べ、サービスや製品を提供するときの課題と制約を明示し、創造的にサービスや製品を設計・試作・評価し、その過程でユーザーについて学びながら、より良い体験を提供しようとするプロセスがあります。この意味でどちらも「利用者視点」です。

もう一つ、欠かせない視点は「共創」です。「人間中心設計」でも「デザイン思考」でも、各プロセスは誰(どの部署)が担当するかです。実践現場には従来からの役割がありますから、その影響で、「デザイン思考」のプロセスを例にとると、下記のようになると思われないでしょうか。

共感⇒ マーケティング部
課題定義とアイデア創造⇒ 企画部、技術企画部
プロトタイピングやデザイン⇒ 企画部、技術企画部
設計・開発⇒ 開発部
機能・品質テスト⇒ 開発部の品証
ユーザビリティテスト⇒ デザイン部

また、各段階を一気通貫してマネージするのは、どの部署の誰の任務だと思っているでしょうか。

もう少し具体的に考えましょう。図3はある製品の企画・開発・デリバリーまでの組織構造を簡略化して示しています。

図3 ある製品の企画・開発からデリバリーまでの担当組織の構造
(伊東昌子 2021 脱コモデティ化のための組織学習:ユーザー経験アプローチとしての人間中心設計の導入.成城大学経済研究所研究報告, No. 93, 1-30.)

ユーザーの理解が大事と言われても、“製品を一番よく知る”設計担当者が直接的に製品の運用担当者に声をかけるわけにはいかず、まずは営業担当者と共に外部提携企業とユーザー企業に声をかけた上で、運用担当者にインタビューしたい旨とその理由を話し合う機会を持たないといけないでしょう。しかし、それは従来の役割を超える活動ですから、新たな支援の仕組みが必要です。その活動が成功して、新たな機能や製品の提案ができたとして、今度は品質保証担当者と新たな品質についての話し合いが必要でしょう。このような従来の活動範囲にはない協働・共創ができて初めて新たな経験価値が生まれます。この共創が沸き起こるためには、3つの要素が必須です。

①支援的探索活動の仕組み:

実践現場が人間中心デザインやUXに動き出そうとするとき、専門家やUXデザイナーなどが伴走することを組織的に支援する制度があること。

②異分野協働のための基盤知識とマインドの共有:

経験価値を共創する異なる部門の人々が、実践的共創を進めるための知識基盤と志向性が共有されていること。(HCD基礎検定が提供するのはこの部分)

③同じ目的や興味を持つ人と議論し合える第三の場:

制約の多い現場を離れ、人間中心デザインやデザイン思考、その組織導入について学び合い語り合えるオーソライズされたサードプレイスがあること。

以上のような「利用者視点」と「共創」の考え方をもとに、HCD基礎検定は、デザイン領域の方々以外の人にも是非挑戦していただき、共創的コミュニケーションを促進するために役立てていただきたい検定です。